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5月

2011

限界インプレッション奇譚

※以下のエントリーは単に長い冗談であり、特に何の役にも立ちません。お時間がある方のみお読みいただけましたら幸いです。また文中の固有名称は実在の人物・団体と一切関係ありません。たぶん。

 

 

不肖伊達、「輸入中古車研究家」を名乗り当サイトを運営しているが、別に誰に依頼されてやっていることでもないので当然稿料などは一切貰えぬ。そして今のところ「ぜひバナー広告を出稿させていただきたく。5億円で」という人物も現れていない。残念だが。

 

そんな状況でも人は飯を食わねばならぬため、自分は自動車雑誌の日雇い編集者をやるなどして日々最小限の米や味噌、スチロール容器に入った出汁付き乾麺などを近隣の商店で購買している。悲しい。

 

エニウェイ。自分の米と味噌の如何は自動車誌編集者稼業のほうにかかっているわけで、本来であれば自動車関係各紙誌1000媒体ほどに隈なく目を通しそのトレンドや編集方針、自動車業界最新ニューズ、評論家各氏の動向などはこれを熟知していなければならない。

 

が、十余年も同じ稼業をやっていると、なんかこう倦んでしまってですね、同業他誌をあまり読まなくなってしまうんですね。

 

こんなことではいかん。自動車誌を読まぬから自分は出世が覚束ず、荒ら家でスチロール容器に入った出汁付き乾麺などを食す境遇に堕ちているのだ。読もう、自動車雑誌を!

 

ということで1000媒体すべてを読破しようと思ったのだが生来意志薄弱に出来ているためそれも儘ならず、まずは一番プレーン? スクエア? ポピュリズムっていうの? と思われる『カートップ』誌の、ここ最近のバックナンバー約10冊をまとめて読んでみることにした。同誌では2011年のこの今も、震災後の今日も、よくわかんないけどエコでソーシャルメディアな昨今も、国沢センセーが軽のミニバンでドリフトしてたりするのだろうか? お台場の裏のほうのショボい道で? 心配だ。

 

 

だがその心配もまったくの杞憂で、数年振りに精読したカートップ誌誌上では公道でドリフトする者は誰もおらず、そもそも国沢先生はあまり新型車の試乗企画には登場しておられないようで、その他先生方が論評されている試乗企画頁も写真こそ勇ましい流し撮りであるものの、よくよくそのテーマ性を精査し要約すれば「省燃費運転」「使い勝手」「味わい」「各種節約」である場合がほとんどであった。唯一、黒沢元治先生だけが常人には知覚不可能な高度なドライビングインプレッションを展開されていたが、この時代にあってその言説は5代目古今亭志ん生の落語を生で聴けるが如しであり、私ごときが口を挟むべきものではない。

 

つまり、最もアンチ・ヒップと思われるCT誌の編集トレンドは(ガンさん見開きを除き)エコとソーシャルにあり。自分もこの方向をパクって、いや、インスパイアされた上でアウフヘーベンさせていけば大衆に向けたヒット企画連発間違いなし。国際A級編集者へと出世し海外試乗会から海外試乗会への華麗な毎日、ライターに転身後はCOTY選考委員となりエビやカニ等の美食に溺れる、美人広報嬢と再婚するなど、目くるめく日々が始まることは間違いない。立てよう、エコでソーシャルな切り口の企画を!

 

 

しかし、とも自分は思う。大勢の者らが行く方向に皆と同タイミングで、否、寧ろやや遅れて進んで行く行為に、勝算は有りや?と。

 

無いだろう。だから、ここは恐らく「逆張り」こそが正しい。即ち皆がエコや節約に感けている今こそが、古き良き「限界インプレッション」的なる市場を自分が独占するチャンスなのだ。エコだソーシャルだと騒ごうが、自動車やそれを愛好する人間が本来的に持つ疾走への衝動が無くなる訳ではない。否、今は壊滅状況といえる限界インプレッション業界だが、何れ数年後「疾走への飢餓」は必ずや起こる。その時こそが自分が独り勝ちし、都心のタワーマンションで祝杯をあげるチャンスなのである。あるのだ。

 

そう確信した自分は早速、限界インプレッション稼業を開業した。自前の99年式アルファGTVでドリフトなどしたところで今更出世は覚束ないので、まずは最新輸入車の広報車を借りなければなるまい。先生方は皆借りているのだ、私も借りよう。インポーターに電話してみよう。

 

 

日本に駐在している全ての輸入車インポーター広報部から不審者或いは「広報車詐欺」と疑われた自分は今、99年式アルファGTVに乗ってここ箱根ターンパイクに来ている。ここに来るまで、東名高速下り線に於いて「超高速域での挙動」をチェックするため普段は絶対に出さない200km/h超の速度を出してみた。その速度に達するためには追い越し車線前方を走るミニバンなどをパッシングで退かす/車間距離1cmまで詰め寄り威嚇する/手元のiPodから軍艦マーチをフルボリュームで浴びせる、等の行為をせざるを得なかった。誠に遺憾ではあるがこれもジャーナリズムのためということで各方面にはどうかご容赦願いたい。

 

ターンパイク入口で係員に「この試乗車の通行料金はフィアット グループ オートモービルズ ジャパン株式会社に請求してくれ」と渋い声で伝え、700円を払わぬままフル加速を開始。今更誰も褒めてはくれぬが99年製3リッターV6は今日も絶好調である。後方で料金所係員が何かを喚いているようだが、生憎アルファV6の咆哮により私の耳までは届かない。

 

便所コーナーを過ぎる。普段の自分であれば、この先のブラインドコーナー出口付近に山菜取りのオバサンや風景写真マニアのオッサンがいる可能性を考え十分に減速するが、限界インプレッション稼業を始めたからには減速は必要最低限で行くべきだ。そう考えた自分は程好い高速を保ったままエイペックスを掠め、コーナー出口へ向けてリニアかつフルなる加速を開始する。案の定と言うべきか、いた。山菜オバサンが。最悪の事態は何とか避けることが出来たが、山菜オバサンの左腕がアルファGTVの左フロントフェンダーを強打した。逆か。アルファが、オバサンを強打した。自分は後で最寄りの警察署に出頭するつもりだ。だが、今は先へ行かせて欲しい。必ず自首しますから。

 

その先のコーナーでのドリフトは失敗したが(恥ずかしながらケツが出なかった)、その次の左コーナーでは見事に決めることが出来た。「サイドォオオオオオオ!」という掛け声が効いたのかもしれない。

 

これで99年式アルファGTVの限界インプレッションはほぼ完成を見たが、まだ最後にひと仕事が残っている。「大観山手前の短いストレートでリミッターに当てる」ことをしなければ、限界インプレッショナーの称号は業界から与えられまい。私はそれにチャレンジする。今から。アルファGTVにそもそも速度リミッターが付いているのかどうか、これまでは安全運転一筋だったため知らないのだが。

 

なるべく速度を殺さないことを意識して最後のコーナーを抜ける。170190200……速度計の針が右へ傾いでいくに連れ視野が狭くなっていく。210220225。このあたりが限界か……? オレは結局リミッターに当てることが出来ないまま、出世も覚束ぬまま、ライター稼業を終えるのか?

 

そう思った刹那、左手の駐車スペースからどこかの媒体の撮影隊と思しき一台の広報車がヌッと飛び出してきた。カートップのY君が運転していたような気もするが、よく覚えていない。覚えているのは、以下のことだけだ。

 

「今、超絶フルブレーキングで“停止すること”を優先すれば、あの広報車にぶつからず済むかもしれない。しかし、それを避けたところで何が生まれるというのか? 荒ら屋に中古車で帰り、また別の即席麺を食すだけだ。悲しい。そうではなく、今この状況で“超絶ダブルレーンチェンジTEST”を即興で行い、成功すれば、それを見たカートップY君(と思しき人物)が『あなた、素晴らしい運転テクニックですね。ぜひ我が誌で巻頭5000ページぶち抜きのご執筆を願います』というオファーが来るやもしれない。そしてその先は、海外試乗会やCOTY選考委員への道に繋がっているに違いない。だから、“ここ”が勝負所なのだ。誰の。オレの」

 

以上の事を0.1秒で思考した自分は、「ダイナミック、セイフティ……チェストオオオオオオオオ!」という掛け声と共に、所謂ダブルレーンチェンジを敢行した。

 

左に大きくブレイクしたアルファGTVの後輪は次に右側にブレイクし、所謂タコ踊りの体で完全にコントロールを失い、自分とアルファGTVは概ね180km/hの速度を保ったままガードレールおよび立木に激突した。

 

 

現世の自分が覚えているのはここまでだ。その後、なぜか中空数メートルの所に浮かんでいる私の意識体は、GTVのステアリングにもたれ掛かっている私の身体を視認した。エアバッグは、ちゃんと開いていた。ド中古アルファのエアバッグ、ちゃんと機能してたんだな。警告灯点いてたから、半ば諦めてたんだけど。生きてるうちに「中古アルファの信頼性、捨てたもんじゃないですよ」って、もっと言っておけば良かったな。 (了)

 

 

株式会社鮫肌出版「月刊ミシン」編集部 鯖田升夫様

いつもお世話になっております。以上が、ご依頼の原稿「オペル製ミシンとオペル・ティグラに見る安全神話の近似(仮題)」20字×84行の納品が遅延しております理由でございます。大変申し訳ございません。来世までには必ず書き上げイーメールにて送信いたしますので、今しばらくお待ちいただけますよう、伏してお願い申し上げます。

 

伊達軍曹拝

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