土
04
6月
2011
聞くところによると、さまざまな大手中古車検索サイトにおける「車種別検索数ランキング」では常に「BMW3シリーズ」が輸入車部門における不動のトップなのだという。
BMW3シリーズ。確かに良いクルマではある。自分も過去にはE36型およびE46型に乗っていた時期があるゆえ、それについてはよくわかっているつもりだ。
しかし、公共交通網の発達した町に住まう自分はそもそも「移動のため」に自家用自動車を使う必要がほとんどない。自分が自家用自動車に乗るのはもっぱら「移動を兼ねた趣味」「移動を兼ねたエンターテインメント」が理由であるため、「平均点が高いクルマ」を選ぶ理由がないのだ。
だが。今にして思う。上記のようなことを言いながら「吾輩はモノのわかる上等な人間である。だからして3シリーズの如き売れ筋については大衆向け評論家に全てを任せ、自分はこれを買わず・書かずの方針でゆく。あぁ人生ドゥ・シュヴォオ」などと格好をつけ続けた結果がどうだ? 永福町のあばら家に住まい、原稿注文電話を36時間ぶっ続けで待ち続けた後、鳴らぬ電話を呪詛しつつ4時間眠り、また起きる。玄関のPC前で再び待機する。たまにブログを更新する――といった、ほとんど国沢先生並みの毎日ではないか。
このまま人生ドゥ・シュヴォオしていては出世は到底覚束ぬ。世の中の多数派である3シリーズについて自分はもっと勉強し、その成果は商業媒体にこれを発表しなければならない。
そう思い立った自分は都内ディーラーに走り、09年式BMW335i認定中古車(車両価格約480万円)を購入した。無論、残価設定ローンである。結論としてお得なローン形式なのかどうかよくわからなかったが、「ほとんどのお客様がコレを利用されていますよ」と店の人に言われたので、これでいいのだろう。自分は今後「多数派」として生きるのだ。
久しぶりに乗る335iは、相変わらず素晴らしいクルマであった。M3のような中年の腰とココロに若干の痛手を与える硬さは皆無であるのに、その体感パワーと加速は公道ではほぼM3同等。それでいてアルピナの如き温泉不倫旅行が似合い過ぎる感じも皆無。ある種の若々しさが335iには漲っているのだ。
この事実をぜひ商業誌で発表し、全国の自動車ファンと感動を分かち合いたい! そう考えた自分は原稿を持ち込むべく各出版社の住所をググった。
しかしググっている途中、自分は妙な記述を発見した。「E90型3シリーズは失敗作である」という意味合いの論述を、匿名ブロガーではなく、高名な自動車評論家が指摘しているらしいのだ。
自分は愕然とした。世の多数派に入るため残価設定ローンまで組んだこのクルマが、BMWの「失敗作」なのだ。自分が乗った限りではどこがどう失敗作なのかまったくわからなかったが、高名な先生が仰っているのだからまず間違いあるまい。自分の努力と野望とローンはすべて水泡に帰した。
しかし同時に、気になる記述も見つけた。「その失敗作を、モデルライフ中にBMW社がどこまでリカバリーできるのか。そこをボクは見守っている」
上記は正確な引用ではないが、そういった意味のことを仰っているらしい。成程、欧州車はモデルライフが進むに連れ各部が改良され所謂「熟成」されて行く。ゆえに、自分が09年式に対して「どこがどう失敗作なのかわからぬ」と感じたのも道理。失敗作とは「私の335i」ではなく「誰かが買った前期3シリーズ」なのである。
そう看破した自分は胸をなでおろし、再び玄関のPC前で原稿注文電話の待機姿勢に入った。
が、ハタと気づく。過去、編集者稼業のほうで幾度となく前期E90中古車に試乗した自分だが、一度たりとも「E90とは失敗作である」と感じたことがない。思い起こせば05年にはこれの新車試乗会にも行ったが、そこでも「いいクルマだなぁ~」と呑気に思った記憶しかない。
なんたる無知、なんと鈍感な自分であることよ!
しかし自分のクルマに対する感受性の低さを嘆いてばかりいても仕方ない。仮にも『輸入中古車研究家』を自称しているのだから、「ここは逆に勉強のチャンスを与えられたのだ!」と前向きに考えたほうが出世には繋がるはずだ。
そう考えた自分は09年式335iを即座に売却し修行の旅に出た。即ち「E90が失敗作である理由」が理解できるまで、前期E90の中古車を購入し続けるのだ。
自分は買いに買った。まずは06年式320i。走行約4万kmで約170万円。……何の問題もなかった。4気筒の320iゆえ大してパワフルではないが、「基本的には安全運転で、たまに直線やコーナーでブワッと飛ばして“らしさ”を味わう」というスタイルを基本とする自分としては、何の痛痒感もない。足回りもまだ結構イケている。
が、恐らく「ごくフツーに運転しながらクルマを評価する」自分が間違っているのだろう。やはりジャーナリストたる者峠に行かねばならない。よくわからないが岡崎コーナーとかに行けば、E90の問題点が露わになるに違いない。
……露わにならなかった。いや、ラリーにも精通している国沢先生とかが物凄いコーナリングスピードでヨロシクすれば、何らかの問題点がわかるのかもしれない。しかし自分程度のドライバーが、他のドライバーもいる中で頑張ってみても何も起こらず、あくまで「安全安心、でもちょっと興奮」といった、要するにBMW特有の感触に終始する。だがそれは自分の運転が下手で遅いからなのだろう。ロールケージとか入れてる「本気系」の人を除けば、当日の芦ノ湖周辺では自分が一番速かったようにも思うが、それは思い上がりか勘違いなのだろう。
06年式だったから自分はE90の欠点に気づけなかったのかもしれない……ということで次は05年式を買ってみた。走行5.8万kmで155万円の320i。……結果は同じだった。内装はさすがに若干お疲れで、足回りの感触も先の09年式335iや06年式320iと比べるとダンピングが少々ヌルい気もするが、あくまで「少々」であり、高速道路を130km/hで巡航、たまに180km/hほど出す分には問題は感じられなかった。やはり200km/hは出さなければいけないのだろう。これからは頑張って200km/h出すよう心がけたい。
その次に買った最初期323iも、次の325iも、さらに次の320i Mスポーツパッケージでも、別段これといった問題はなかった。もちろん中古車ゆえにそれぞれ固有の問題点はあったが(レザーシートのスレや内装樹脂パーツの小キズ、できればショックアブソーバーを新品にしたいけどまぁもうちょいこのままでもいいかなぁ、というぐらいの足回り劣化)、それらは単に「中古車としてのちょっとした問題」である。
ここまでしてE90の欠点が明確にはわからなかった自分は、本当に鈍感なのだろう。こんな人間が自動車業界で出世できるとも思えない。
もう、引退しよう。
そもそも、自分はもはや東京に居住することもままならないのだ。勢いに任せて購入した計6台分のローンを支払わねばならぬわけだが、出世が覚束ぬ今、計27万3000円/月にのぼるオートローンが払えるわけがない。「ローン百選『VIP』(20代30代限定コース)」やその他信販会社、地元信用金庫、アイフル、アコム等々に強烈な追い込みをかけられているのが、自分の現状である。
そんなこんなで結局東京を出奔した自分は今、京都は東本願寺斜め前の漫画喫茶でこれを書いている。もしもあなたがローン百選の担当者に会う機会があったなら、「伊達は“大変申し訳ない”と言っているようですよ」とお伝えいただけたならば嬉しい。また志半ばで遂電することになったが、計6店のBMW販売店にも「中古E90、おいしゅうございました」とお伝えいただけたら幸いだ。
※このエントリーは中古BMWの感想部分を除きすべてフィクションです。実在する人物・団体とは一切関係ありません